依田一義のエネルギー情報52

電力を購入するユーザーの住宅屋根などに太陽光発電設備を「無償」で設置し、そこで発電した電力を活用するユニークな電力小売サービスが登場した。日本エコシステムが2016年3月16日から申込受付を開始した「じぶん電力」だ。
日本エコシステムは情報通信建設会社の日本コムシスのグループ会社で、1997年に設立。太陽光発電システムの販売施工の他、蓄電池やオール電化家電の販売などのエネルギーシステム事業を展開している。2016年2月に小売電気事業者登録を済ませた同社は、2016年3月18日に会見を開き、新事業として開始するじぶん電力の詳細と今後の事業展開方針について説明した。

●太陽光発電システムを無償設置
まず、じぶん電力を利用するユーザー側の視点から見ていく。じぶん電力に申込を行ったユーザーの住宅屋根に、日本エコシステムが無償で太陽光発電システムを設置する。パネルは全てソーラーフロンティア製のパネルを利用する。発電システムと発電した電力の所有権は日本エコシステムに帰属し、ユーザー側は日本コムシスに使用電力量に応じた料金を支払うことで発電した電力を自宅で利用できる。なお、この電力は停電時などの非常時には無料で利用可能だ。
しかし、太陽光発電システムの場合、夜間など発電できない時間帯も発生する。こうした時間帯は新電力最大手のエネットから調達した電力を、日本エコシステムを通じて提供し補う仕組みになっている。ユーザーは時間帯に応じて「太陽光発電分」とエネットの電力を利用した「供給分」の2つの電力を購入する形になり、それぞれ料金体系も異なる。
じぶん電力の契約期間は20年間で、その間の発電システムの定期メンテナンスなどは全て日本コムシス側が担当する。ユーザー側に費用は発生しない。なお、発電システムの遠隔監視にはNTTスマイルエナジーの「エコめがね」を採用した。
このサービスの大きな特徴の1つとなっているのが、契約期間の20年間が経過すると設置した太陽光発電システムはユーザー側に譲渡される点だ。ただし途中解約の場合は、契約経過期間に応じた価格でユーザー側が太陽光発電システムを買い取る必要がある。

●これまでの実績を活用、環境価値の高い電力を買える時代に
会見に登壇した日本エコシステム 代表取締役社長の白髭博司氏は、じぶん電力について「日本エコシステムはこれまで全国で住宅向けを中心に約3万6000件の太陽光発電システムの販売・施工実績がある。こうしたノウハウを活用したじぶん電力は、CO2排出量削減の観点からも非常に意義のある取り組みだと捉えている。住宅に太陽光発電システムを導入したいが、初期費用の高さで断念する方も多い。そこで『電気料金を支払うだけで環境価値の高い電気を購入できる』という新しいモデルを提案しようと考えた」と語った。

●全国7地域で提供、現在より数%安い料金に
気になる料金プランはどうなっているのか。先述したようにじぶん電力の電力料金はエネットから調達して供給する「供給分」と「太陽光発電分」の2つから構成される。供給分の電力料金は、一般的な電力会社の現行プラント同じく「基本料金+電力量料金」で構成する。
一例として東京電力管内で提供する料金プランと比較してみる。東京電力の従来電灯Bに相当する「じぶん電力Aプラン」の供給分の電力料金は従来電灯Bより基本料金(30〜60A)は約40〜80円、電力量料金は段階に応じて1kWh(キロワット時)当たり0.5〜1.5円程度安く設定している。
一方、設置した太陽光発電システムで発電した電力の料金は、1kWh当たり27円だ。基本料金などは発生しない。東京電力の従来電灯Bの300kWh以降の電力量単価より2.93円安い。なお、東京電力の場合従来電灯Cに相当し、1kVA(キロボルトアンペア)ごとの契約量で基本料金が決まる「じぶん電力Bプラン」も用意する。
このようにじぶん電力は、供給分、太陽光発電分ともに現行の電力会社の料金プランより安い単価となっている。家庭や地域によって毎月の供給分と太陽光発電分の購入比率は異なると予想されるが、2つとも料金単価が現行の電力会社のが設定する300kWh以降の電力量料金単価より安い。電力使用量のが多い家庭であればあるほど、よりお得になるプランといえるだろう。
じぶん電力はまず北海道、青森県、秋田県、岩手県、山形県、新潟県、富山県、石川県、福井県、沖縄県を除く地域で提供する。電気料金の目安について日本エコシステム 取締役 企画開発部長を務める石原敦夫氏は「地域ごとに異なるが、現在の電力会社が提供している料金プランより、標準的な家庭で平均数%安くなるように単価を設定した。しかし料金の安さを大きな差別化要因とするサービスではないと捉えている」としている。

●余剰電力を売電して収益に
日本エコシステムではじぶん電力のターゲットとなるユーザー層についてどう捉えているのか。資源エネルギー庁の調査によれば家庭用太陽光発電システムの導入余地がある既築住宅は全国で1200万戸ある。このうち現在設置が進んでいるの12.1%に相当する170万戸にとどまっている。固定買取価格制度(FIT制度)が始まってから産業用の太陽光発電設備は急速に拡大したが、10kW未満の住宅向けシステムの普及は伸びているとはいえない状況だ。
一方、日本エコシステムでは今後2年の間に自宅に太陽光発電設備を購入したいというユーザー数は52.8万戸、そして興味はあるが未設置・非購入となっているユーザー数を210万戸と見込んでいるという。石原氏は「ユーザーが太陽光発電システムの設置に踏みとどまってしまう理由の大きな要因が『初期費用の高さ』にある。そこでじぶん電力ではこうした『興味はあるが、費用の問題で導入を断念していた』というユーザーを潜在顧客と捉え、開拓を進めていく」と語っている。
対象顧客としては、太陽光発電システムの設置を必要とするため、基本的には戸建住宅を中心としつつ、低圧配線を利用する幼稚園などの小規模な法人施設も対象に顧客開拓を進めていく方針だ。初年度から2年間の合計で約1万件の獲得を目指す。初年度は4000件、次年度は6000件の獲得を目指し、そして5年後には10万件まで拡大したい考えだ。

●将来は外部資金の活用も視野に
じぶん電力はまず「無償で太陽光発電システムを設置する」というビジネスモデルの特性上、大きな初期投資が必要になる事業だ。5年後に10万件と考えた場合、合計で数千億円規模の投資額が必要になることも想定される。
日本エコシステム側の収益は毎月の電気料金がベースとなるが、もう1つの収益源の柱としてFIT制度による売電も活用する。日中などに太陽光発電システムで発電する電力量が、その住宅の電力使用量を上回る場合、その余剰電力を10年間にわたって余剰売電する仕組みだ。
石原氏は「じぶん電力は一般的な小売電力事業と異なり設備施工も必要になる。こうした部分も見込んで、2年間で1万棟という目標を掲げた。5年後に10万棟を実現するには資金調達なども必要になると考えているが、まずこの2年間の中でコスト削減できる部分などを洗い出し、将来的に外部資金を活用しても事業運営が成り立つ利益率を目指していく」と語っている。
日本エコシステムでは今後、通常の太陽光発電システムの販売・施工と、無償でシステムを設置し電気料金や売電収入で利益を得るじぶん電力の2つの事業を同時並行で運営していくことになる。
石原氏は「ユーザーのニーズもビジネスモデルも異なるため、どちらがわれわれにとって良いということは一概にはいえない。しかし太陽光発電市場がグリッドパリティを迎え、本当の意味で太陽光が『電源』となるためには、じぶん電力のような『システムではなく電気を売る』といったモデルに移っていくのは必然だと捉えている。米国では先行してこうしたモデルが確立しつつある。日本でも時代の状況としてはこうした新しいモデルに移っていくのではないかと考えている」と述べている。

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