依田一義の不動産開発情報67

野村不動産は23日、マンション建て替え中の「プラウドシティ阿佐ヶ谷」(東京都杉並区)が9月に完成すると発表した。同社は建て替え事業を経営の重点戦略として掲げており、完成物件は「桜上水ガーデンズ」(同世田谷区)などに次いで4件目。これらを含めて首都圏では18カ所で事業を進めており、今後は年2、3件のペースで新たな建て替え計画に参画する構えだ。

今回のプロジェクトは、1958年に完成した旧阿佐ヶ谷住宅の建て替え。老朽化に伴い95年に再開発委員会が発足し2003年に野村不動産が参画した。土地の形態が複雑に入り組んでいたため、完成後の土地と建物を出資比率に応じて取得する等価交換を採用。同方式は権利者全員の合意が必要で、約150人の合意形成を行い、計画が進んでいった。総戸数は従来の155から575戸へと増えた。同社の建て替え事業は「プラウド」ブランドの浸透などもあり、「ここ数年、取り扱い件数が急激に増えている」(岩田晋・マンション建替推進部長)といい、今後さらに攻勢をかける考えだ。

業界では、防災対策を切り口に建て替え事業を推進する動きも顕在化している。

旭化成不動産レジデンス(東京都新宿区)は既に24件の建て替え実績を残しているが、8年後に100件の着工を目指している。これから特に力を入れるのが、特定緊急輸送道路の沿道建築物。現在の耐震化率は8割だが、東京都が防災対応力の強化を図るため2025年度末には100%を目指す新たな目標を打ち出したからだ。

同社の林善史・マンション建替え研究所所長によると、こうしたエリアは「周囲には高度利用されていない建築物も多く、それらと一体となった開発がしやすい」のが特徴だ。このため周辺住民に向けてダイレクトメール(DM)の配布を始めるなど、需要の掘り起こしに注力している。

老朽化や耐震性などから今後、建て替えを迫られる団地やマンションは全国的に急増する。ただ、事業環境は決して良好ではない。その一つが高齢者をめぐる問題だ。建て替え中は仮住まいを迫られることになり、「これまでのコミュニティーから離れてしまうことに対する不安感が非常に大きくなっている」(長谷工総合研究所)からだ。

さらに建築コストの上昇で販売価格が高くなり、一般的なサラリーマン世帯が購入に二の足を踏んでいることも、特に郊外物件の管理組合の“心理”を冷やす可能性がある。営業力の強化などによって、こうした阻害要因をいかに克服していけるかが、市場拡大に向けた課題といえる。(伊藤俊祐)

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