依田一義のエネルギー情報155

国を挙げてCO2(二酸化炭素)の排出量削減に取り組む中で、火力発電所から排出するCO2を回収・貯留・利用できる設備の普及が大きな課題になっている。国が支援する実証プロジェクトが全国各地で進んでいるが、いち早く民間企業による商用レベルのCO2回収・利用計画が愛媛県で動き出した。

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愛媛県の新居浜市を中心に発電事業を展開する住友共同電力が、主力の火力発電所にCO2分離・回収設備の導入を決めた。2008年に稼働した「新居浜西火力発電所」の3号機に、発電後の排ガスからCO2を分離・回収する設備を併設する計画だ。2018年6月に運転を開始して、回収したCO2を同地区に立地する住友化学の工場に供給する。

新居浜西火力発電所の3号機は石炭と木質バイオマスを混焼して、周辺地域に立地する住友グループ各社に電力と蒸気を供給している。発電能力は15万kW(キロワット)にのぼる。木質バイオマスを燃料に加えることで年間に1万トン前後のCO2排出量の削減効果を生み出しているが、新たにCO2分離・回収設備を導入して年間に4万8000トンのCO2を生産・利用できる見込みだ。

医薬品や家畜の飼料の原料をCO2で作る

CO2分離・回収設備は新日鉄住金エンジニアリングの製品を導入する。新日鉄住金エンジニアリングはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託研究を通じて開発したCO2分離・回収設備を製品化している。CO2を溶剤に吸着させて分離・回収する化学吸収法を使う点が特徴である。

住友共同電力からCO2の供給を受ける住友化学の工場では、必須アミノ酸の「メチオニン」を製造する工程でCO2を副原料として利用する。メチオニンは医薬品をはじめ、家畜の飼料に添加する用途で大量に使われている。

新居浜地区にある住友化学の工場では年間に10万トンのメチオニンを製造している。2018年の半ばに生産能力を25万トンに引き上げる計画で、そのタイミングに合わせて住友共同電力がCO2の供給を開始する。

国内では火力発電所から回収したCO2を使って、バイオ燃料の原料になる微細藻類を培養する試みなどが始まっている。住友共同電力と住友化学がメチオニンの製造にCO2の利用を開始すると、商用レベルのCO2回収・利用プロジェクトでは国内で初めてのケースになる。

住友共同電力は89年前の1927年に新居浜地区で電力の供給を開始した。現在は愛媛県内に3カ所の火力発電所のほか、愛媛県と高知県で合計11カ所の水力発電所を運転している。火力発電所では木質バイオマスや下水の汚泥から作る消化ガスを混焼してCO2排出量の削減に取り組んできた。さらに新居浜地区ではCO2排出量の少ないLNG(液化天然ガス)を燃料に使う火力発電所(発電能力15万kW)も建設中だ。

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依田一義のエネルギー情報95

火力発電の問題点はCO2(二酸化炭素)の排出量が多いことに加えて、燃料を海外に依存していることにある。この2つの問題を解消する火力発電所が新潟県の長岡市に誕生する。電力に特化した投資ファンドを運営する大和証券系のIDIインフラストラクチャーズが「長岡火力発電所」の建設計画を決めた。
建設予定地は長岡市が開発した「西部丘陵東地区」の産業ゾーンにある1万7000平方メートルの区画だ。この場所から南へ5キロメートルほど離れた一帯の地中には、日本で最大の天然ガス生産量を誇る「南長岡ガス田」が広がっている。ガス田の生産設備から南北にパイプラインが延びているため、長岡火力発電所では近くを通るパイプラインから国産の天然ガスを燃料として利用できる。
発電能力は8万5800kW(キロワット)を想定している。火力発電所としては中規模だが、年間に340日稼働すると7000万kWh(キロワット時)を超える電力を供給することが可能だ。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して約20万世帯分に相当する。長岡市の総世帯数(10万世帯)の2倍に匹敵する電力量になる。
長岡火力発電所は4月中に造成工事を開始して、1年後の2017年4月に発電設備の建設工事に着手する。運転開始は2018年7月を予定している。発電能力が15万kW未満の火力発電所には環境影響評価の手続きが不要なため、建設計画の決定から運転開始まで2年強で完了する早さだ。

天然ガス100%で発電効率は49.5%
発電した電力は全量を新電力のF-Power(エフパワー)が買い取る。F-Powerは最近の2年間で販売シェアを急速に伸ばして、2015年9月の時点では新電力の中でエネットに次ぐ第2位に躍進した。自社でも発電所を所有していて、千葉県で10万kW級、新潟県でも1万1600kWのガス火力発電所を運転中だ。新設の発電所を加えて東京電力・東北電力管内の供給力を拡大する。
長岡火力発電所は11基のガスエンジン発電機で構成する。川崎重工業が製造・販売する「カワサキグリーンガスエンジン」の高効率タイプを採用した。1基あたりの発電能力は7800kWになり、発電効率は49.5%である。
国内で稼働している従来型のガス火力発電所の発電効率は40%前後にとどまることから、それに比べて2割以上も効率が高い。最先端のコンバインドサイクル方式による大規模なガス火力発電所の発電効率は55~60%に達するが、それに次ぐ効率の良さで発電コストを抑えることができる。
燃料の天然ガスを供給する南長岡ガス田は帝国石油(現・国際石油開発帝石)が1984年に生産を開始した。地下4000~5000メートルの深さに広がるグリーンタフ(緑色凝灰岩層)の中に天然ガスが大量に貯留している。2013年度の生産量は12億Nm3(ノルマルリューベ)にのぼり、国内の天然ガス生産量の約4割を占める。

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