依田一義のエネルギー情報138

NTNは2016年9月6日、福島県須川市で同年6月から実施している小水力発電機の実証試験の様子を公開した。同社では新規事業の一環として、日本の各地に広がる農業・工業用水路に設置しやすい小型の小水力発電機の開発を進めている。須川市での実証試験は間もなく終了し、同年12月から販売を開始する予定だ。
実証試験の場所は、須川市にある「新安積疏水(しんあさかそすい)」。日本三大疎水の1つである「安積疏水」から、新たな開拓地に水を引く幹線水路として1951年に開通した水路だ。

今回の実証試験では普段農業用水路として利用されている部分に、約100m(メートル)にわたって10台小水力発電機を直列に設置した。実施については政府や自治体への申請の他、水路を管理する安積疏水土地改良区、周辺の農業従事者の協力を得た。

NTNが開発を進めている小水力発電機は流水でプロペラを回し、それと連動する発電機で発電するというシンプルな構成だ。翼径は60/90/120cm(センチメートル)の3種類を用意する。発電出力の参考値は翼径90cmのモデルで流速が2m/s(メートル秒)の場合で1.0kW(キロワット)。販売時は翼径の種類の他、発電機のグレードなどのカスタムも可能としている。

1台1時間、合計3人で設置可能

NTNが同社の小水力発電機の大きなメリットの1つとするのが、設置コストの低さだ。小水力発電機の重量は130~150kg(キログラム)。移動式クレーン車1台と3人の作業者のみで、1台当たり1時間程度で設置できるという。

設置手順は以下の通り。まず発電機とプロペラ水車を支える2本を梁(はり)を、水路をまたぐように取り付ける。この梁は水路左右の基礎部分を挟むようにして固定する仕組みで、水路に対して何か工事を加える必要はない。

梁を設置した後は、移動式クレーン車で発電機とプロペラ水車の部分をつるし、梁の上に置くだけ。設置のために一時的に用水路の水流をせき止める必要もない。

用水路で小水力発電を行う場合、水路をせき止めて水位の落差を作り、水が落ちるエネルギーを使って発電する方式もある。こうした方法の場合、設置にある程度の工事費用が掛かる。NTNの開発する小水力発電機は、こうした落差形成のためのコストが必要ない。規模によって異なるが、人件費などを含め5~10万円程度で設置できるという。

小水力発電機を設置できる水路の幅と水深は、翼径+10cmが目安になるとしている。翼径が60cmであれば、70cmの幅と水深を持つ水路であれば設置できる。販売する際は、設置する水路の幅に梁の長さを合わせ製作し、提供する。なお、設置後の日々のメンテナンスは不要だという。また、水車の回転を阻害しないよう水路内のゴミをろ過する除塵スクリーンもオプション製品として用意する。

さらなる直列設置を可能に

小水力発電機は複数台を水路に直列に並べて設置することで、全体の出力や発電量を増やすことができる。しかし、流れの上流にある水車が回転すると、下流によどみが生まれる。このよどみによって、下流の水車の回転効率が落ちると、全体の発電効率が下がってしまう。そこでNTNでは実証試験の中で、なるべくよどみが生まれない水車の形状と、最適な水車と水車の距離も検証した。

まず、水車の形状ではギアボックス部分に砲弾型のカバーを採用した。これにより水車の後方に生まれる水のよどみやうねりを少なくできるという。

実証試験では水車と水車を10メートル間隔で設置していた。しかし実証を続ける中で、こうした砲弾型のカバーの採用などにより、実際には数m程距離を縮めても問題ないことが分かってきたという。設置できる間隔が短くなれば、水路長に対してより多くの小水力発電機を設置できる。NTNでは2016年12月の販売に向け、今後もギアボックス部分の形状などの改良を続けていくとしている。

1日1世帯分の電力を発電

では一体どれくらいの電力を発電できるのか。3カ月にわたる実証試験の結果、翼径60cmの水車では1日当たり4.3kWh(キロワット時)、同90cmの水車では1日当たり12.0kWhを発電できることが分かった。90cm水車であれば、1日当たり約1世帯分以上の使用電力量を発電できる計算だ。これはNTNが事前にシミュレーションしていた通りの性能だという。

ターゲットはエネルギーの地産地消

小水力発電機は系統接続し、再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)を利用して発電した電力を売電することも可能だ。2016年度の小水力発電の買取価格は1kWh当たり税別34円。今回の新安積疎水の実証試験のデータに基づいて簡単に試算すると、90cm水車の場合は1日当たり408円、1カ月当たり約1万2000円、年間14~15万円程度の売電収入になる。

NTNではより効率を高めるべく改良を続けた上で、小水力発電機を1台当たり130〜150万円程度で販売する予定だ。売電用途での利用も可能だが、NTNが主な用途として想定しているはエネルギーの地産地消だ。

NTN 執行役員 新エネルギー商品事業部 事業部長の石川浩二氏は「日本には約40万kmの用水路があるといわれているが、その多くはまだ活用されておらず、再生可能エネルギー源として大きなポテンシャルがある。また、既にある用水路を使い、小水力発電機を独立電源として活用したいというニーズはあると考えている。販売前だが既に複数の引き合いがある」と語った。

このように独立電源として利用して利用するケースを想定し、パートナー企業と提携し蓄電池をセットにした提案も検討する方針だ。また、農業用水路だけでなく、工業用水や排水路、下水道などでの利用も提案していくとしている。

NTNは2018年度までの中期経営計画において、新規事業の創出を掲げている。その1つがエネルギー事業だ。今回開発した小水力発電機は2016年7月に販売を開始した風力と太陽光で発電する「ハイブリッド街路灯」に続く、第2弾の製品となる。小水力発電機は2025年までに売上高50億円を目指す方針だ。また、2017年春をめどに、再び新安積疎水で小水力発電機の実証試験を再開する予定で、今後も製品改良を続けるとしている。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報121

ベアリング大手のNTNは、風力・水力発電装置事業に本格的に乗り出す。従来は部品供給にとどまっていたが、独自の軸受け技術を生かし、地域コミュニティーで使う小型の風車や水車に狙いを絞り、発電効率の高い発電装置をつくる。
同社初の商品として、太陽光と風力の2種の再生エネで発電する「ハイブリッド街路灯」を7月から売り出した。羽根の片側だけ厚みを持たせ、先端部を本体側に少し曲げることで気流の乱れを防ぎ、風力発電で課題になる風切り音がほぼ出なくなった。軸受けの改良で、風向きに関係なく羽根が回り、効率的に発電できる。公園や商業施設向けに売り込む。
NTNは自動車や産業機械に使うベアリングで世界大手。風力発電所の大型風車で使う主軸の軸受けでも世界大手を誇ってきた。だが電気自動車の普及が進むと、同社が手がけるドライブシャフトなどの部品が不要になる危機感があった。蓄積した軸受けの技術を生かし、発電装置そのものに取り組む。10年後に売上高500億円をめざす。(新田哲史)

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報88

NTNは、中期計画「NTN 100」により2018年3月に迎える創業100周年と、次の100年の持続的成長に向けたさまざまな施策を推進中だ。その中で取り組む新たな4つの事業領域の1つが、自然エネルギーを利用したエネルギ―事業である。高効率な翼や独自技術を活用した小型風力発電装置や小水力発電装置、蓄電装置など、独自技術により差別化できる領域で新たな製品領域を拡大していく方針を示している。
今回新たに設立した「グリーンパワーパーク」では、このエネルギー事業における中心的な製品の1つである、垂直軸風車を3基、小水力発電装置を1基、風力と太陽光のハイブリッド街路灯を3基、新たに設置。自然エネルギー関連装置の実証実験を行う。
今回導入した垂直軸風車は、どの方向から吹く低速の風でも回り始め、風速2メートル/秒で発電を開始する他、ほとんど騒音を出ないという特徴を持つ。小水力発電装置は、農業用の水路や下水道など、小さな水流がある場所で使用可能で、特殊な形状のプロペラの羽根が効率的に水を捉える構造となっている。
これらの装置により発電した電力は、低炭素化社会を実現する具体的な事例として、EV(電気自動車)の充電や野菜工場の夜間照明などに活用する。各装置の発電量や、蓄電、消費の状況は、コントロール室で常時モニタリングすることで最適に制御し、CO2を排出しないクリーンな自然エネルギーを効率的に循環させる。
NTNの先端技術研究所は、桑名ビジネスリサーチパーク(三重県桑名市)内に立地。革新的なモノづくり技術の創造や、新エネルギー分野などの部材やシステムの研究開発を行っている。

株式会社Z-ONE