依田一義のエネルギー情報107

再生可能エネルギーの中で最も安定した電力を供給できるのがバイオマスである。全国どこでも発電用の燃料を入手できるうえに、年間を通して発電量が変動しない。2012年度に固定価格買取制度(FIT:Feed-In Tariff)が始まったことで、バイオマス発電所の建設プロジェクトが各地に広がった。

今後さらに普及させるためには課題も多い。燃料が豊富にあるとはいえ、長期にわたって安定した量を確保できる体制を構築しないと、発電事業が立ち行かなくなるおそれがある。2017年度に改正するFIT法では発電設備の認定制度を強化して、バイオマス発電設備には燃料の調達先や調達量の申告が必要になった。

新しい認定制度では審査の段階で、使用する燃料の詳細な情報を提示しなくてはならない。ほかのバイオマス発電所でも同じルートで燃料を調達する場合には、両方の認定審査で調達状況を確認する。さらに認定を取得するにあたって燃料の利用計画を提出する必要があり、運転を開始した後も使用量の実績値を報告することが義務づけられる。

こうした厳格な需給管理を実施すれば、バイオマス発電に利用する燃料の調達状況を政府や自治体でも確認できる。と同時に貴重な資源の乱用を防いで、林業をはじめ既存の産業に悪影響を及ぼさないように国全体で調整することも可能になる。

すでに運転を開始したバイオマス発電所の中には、地域ぐるみで燃料の安定供給体制を構築する事例が増えてきた。代表的な例は茨城県の常陸太田市で2015年11月に稼働した「宮の郷木質バイオマス発電所」である。発電能力が5750kW(キロワット)の大規模な木質バイオマス発電所では地域の間伐材などを年間に6万3000トンも利用する。

これだけ大量の燃料を長期間にわたって確保するために、地元の林業事業者が共同で原木の供給体制を作り、発電事業者の日立造船と共同でチップの製造工場を発電所の隣接地に建設した。茨城県と常陸太田市も補助金を交付してチップ製造工場の建設・運営を支援している。

燃料調達の低コスト化に取り組む自治体も

安定した電力の供給源としてバイオマス発電を全国各地に拡大していくためには、地域単位で自立できる事業モデルの確立が重要になってくる。政府が目指す木質バイオマスの地域自立モデルは、木材の調達からチップの製造、さらに燃料のチップを利用する発電所や温泉・病院などの施設を含めて、地域内で資源と資金が効率よく循環する仕組みである。

木材の調達面では森林に発生する残材の収集システムを構築するほか、間伐の徹底や早生樹の活用による低コスト化を図る。チップの製造工場は発電所の構内に建設して輸送費を抑える一方、燃料を利用する施設にはリース方式による設備の導入を促進していく。

大分県で林業が盛んな日田市では、木質バイオマス発電用の燃料調達コストの低減に地域ぐるみで取り組んでいる。市内の山林を対象に林地残材の収集システムを整備して、生育期間の短い早生樹の利用可能性についても検討した。すでに日田市内では大規模な木質バイオマス発電所が2カ所で運転中だ。

木材の中には発電に利用しにくいものもある。建築物の廃材などは燃焼効率が低いために、発電用の燃料には適していない。地域で生まれるバイオマス資源を有効に活用するために、岡山県の倉敷市では発電に利用できない木材を使って、工場に蒸気を供給する事業を検討している。

政府は全国各地で実施中の先行事例を自治体間で共有できるようにする計画だ。林野庁を中心に燃料の供給コストを低減するための技術開発も推進していく。さらにバイオマス燃料やバイオマス発電設備に対する規制を緩和して導入事例の拡大につなげる。

地域のバイオマス資源は木質に限らず、下水の汚泥や家畜の排せつ物、ごみ処理場に大量に集まる廃棄物などがある。急速に広がる木質バイオマス発電に続いて、そのほかのバイオマス資源を活用した発電設備の増加も見込める。導入量の拡大に向けて、バイオマス資源の種類ごとに対応する施策が必要になってくる。

株式会社Z-ONE

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