依田一義のエネルギー情報175

2009年に世界で初めて「エネファーム」が日本市場に登場して以来、販売台数は着実に増えてきた。ところが2015年度に過去最高の4万台を超えたものの、成長のペースは鈍化してしまった。2016年度に入ると再び販売台数が伸び始めて、上半期だけで2.5万台に達している。このペースで増えていけば、年間で5万台を超えて前年度を大きく上回る勢いだ。

エネファームはガスを改質して水素を作り、外気から取り込んだ酸素と反応して電力と熱を発生させる。熱は給湯や暖房に利用できるため、エネルギー効率が高くなる利点がある。政府は家庭や商店の省エネ対策としてエネファームの普及に力を入れ、2030年までに全国で530万台の導入を目指している。

現状では累計の販売台数が20万台に満たないため、強力なテコ入れ策が欠かせない。政府は2016年度に総額55億円にのぼる補助金制度を新たに開始して、販売台数の拡大と製品価格の低下を促進している。その効果が上半期の販売台数の増加に表れた格好だ。

エネファームには普及タイプのPEFC(固体高分子形燃料電池)と、高効率タイプのSOFC(固体酸化物形燃料電池)の2種類がある。2009年の発売当初は1台の価格が300万円と高かったが、2015年度にはPEFCが136万円に、SOFCも175万円まで下がった。さらに2016年度に開始した補助金制度でPEFCに15万円、SOFCに19万円の補助金を交付して販売価格の低下を加速させる。

政府はエネファームを広く普及させるためには、PEFC方式の販売価格を70~80万円まで引き下げる必要があるとみている。その目標を2019年度に達成して普及にはずみをつける考えだ。SOFC方式も2021年度に100万円まで低下させる。

余剰電力の買取サービスも始まる

その一方でガス会社と機器メーカーは製品のバリエーションを増やして、導入対象になる家庭の範囲を拡大している。典型的な例がマンション向けのエネファームだ。東京ガスとパナソニックが2016年7月に発売したPEFC方式の製品では3つのタイプを用意した。燃料電池の本体と貯湯ユニットを分離できるタイプや、排気パイプを延長できるタイプがある。マンションの住戸のレイアウトに合わせて選べるようにした。

大阪ガスが機器メーカー3社と共同で開発したSOFC方式の新製品もマンションに設置できる。2016年4月に発売した「エネファームtype S」は発電ユニットを小型化したうえで、バックアップ用の熱源機を分離した。マンションのバルコニーにも設置しやすくなり、既設のガス給湯器と組み合わせて使うことも可能だ。

さらにエネファームで発電した電力を買い取るサービスも4月に開始した。通常の使用方法では家庭で必要な電力に合わせて発電量を調整するが、常に発電能力の上限まで電力を作ることによってエネファームの効率を高める。ガスの使用量が増える代わりに、余った電力を大阪ガスが買い取る。家庭では売電収入がガス料金の増加分を上回り、結果として光熱費を削減できる。

2017年4月にガスの小売全面自由化が始まると、競争によってガス料金が下がることは確実だ。そうなるとエネファームの利用効果が高まる。同時に電力会社が家庭向けにガスの小売を開始して、エネファームの販売にも力を入れていく。2017年度から販売台数の増加にはずみがつく可能性は大きい。

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依田一義のエネルギー商品情報

東京ガスとパナソニックは、マンション向け家庭用燃料電池「エネファーム」の新製品を共同開発し、東京ガスが7月から発売する。
東京ガスは、戸建住宅に比べ設置条件に制約があるマンション向けに、燃料電池ユニットの排気筒を延長、従来設置することが難しかった排気が滞留しやすいよう奥まった場所にも設置が可能となる排気延長タイプをラインナップに加えた。
また、新製品の貯湯ユニットとバックアップ熱源機のユニット間の許容配管距離を従来の10mから15mに延長、住戸の両端にユニットを離して設置するようなユニット間の距離が長い設置も可能。
エネファームの設置自由度を向上、マンション事業者がエネファームを組み込んだマンションを設計しやすくした。
また、停電時に電気を使いたいというニーズに対応しやすくするため、マンション向け現行品ではオプション品としていた停電時発電継続機能を燃料電池ユニットに内蔵した機種をラインナップに追加した。
価格はオープン価格。

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依田一義のエネルギー情報⑩

アイシン精機は、家庭用燃料電池「エネファーム type S」をフルモデルチェンジして4月1日からガス会社向けに販売する。
「エネファーム type S」は、同社、大阪ガス、京セラの3社とトヨタ自動車が開発した技術をベースに商品化したもの。
新型「エネファーム type S」は、現行の「エネファーム type S」に比べ、発電時に発生する熱の損失を減らすことで、
現行品の発電効率46.5%から5.5ポイントアップ、世界最高の52%(都市ガス13A)を実現した。
新製品は、発電効率を高めた結果、排熱量が少なくなるため、排熱を貯める貯湯タンクを現行品の90Lから28Lに小型化、発電ユニットに内蔵した。
これにより、排熱利用給湯暖房ユニットを廃止し、通常の給湯暖房機に接続して使用することにより、世界最小の機器本体サイズを実現している。
発電ユニットへの貯湯タンク内蔵化やシステム構成の大幅な見直しにより、コストダウン。給湯暖房システムと比べ、年間CO2排出量を約1.9トン削減できる。自立発電出力を現行品の350Wから700Wに向上し、停電時に利用できる電力が多くなる。
「エネファーム type S」は、電気を発生させるセルスタックを京セラが、セルスタックを組み込んだ燃料電池発電ユニットをアイシンが、セット用給湯暖房機・リモコンをノーリツがそれぞれ製造する。

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