依田一義のエネルギー情報99

住友商事が南相馬市に建設するメガソーラーは、太平洋沿岸にある市有地を利用する。面積は110万平方メートルに及び、東日本大震災に被災した3つの地区に広がる。すでに5月20日に着工して、1年10カ月後の2018年3月に運転を開始する予定だ。

発電能力は59.9MW(メガワット)に達して、福島県内で稼働中あるいは建設中のメガソーラーを含めても最大になる。太陽光発電の標準的な設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を14%で計算すると、年間に7300万kWh(キロワット時)の電力を供給できる。

一般家庭の電力使用量(年間3600kWh)に換算して2万世帯分を上回り、南相馬市の総世帯数(2万3500世帯)の85%程度に相当する電力量になる。住友商事は発電事業の特別目的会社を設立して、発電した電力を固定価格買取制度で売電する計画だ。年間の売電収入は20億円を超える見込みで、総事業費は220億円を想定している。

このメガソーラーの建設プロジェクトには、みずほ銀行が参画して資金調達を担当するほか、東芝と大成建設がEPC(Engineering, Procurement and Construction、設計・調達・建設)を請け負う。東芝が太陽光発電システムを供給する一方、大成建設は太陽光パネルを設置するための架台の基礎工事などを担当する。

大成建設は「T-Root」と呼ぶ独自の基礎施工技術を使って、工期の短縮とコストの低減に取り組む。T-Rootは樹木の根(Tree-Root)が地中に広がる形状をヒントに開発した。架台を支える4本の鋼管の下に、それぞれ4本ずつ基礎杭を地中に斜めに打ち込む方式だ。

ハンディー型の電動ハンマーを使って人力で杭を打ちこめるため、一般的なコンクリート基礎による施工と比べて工程が少なくて済む。大成建設によると、施工期間が最大で半分程度に短縮できるうえに、工事費も1~3割ほど削減できる。水田の跡地のように軟弱な地質に対応できるほか、重機を使えない傾斜地でも施工しやすい利点がある。

2020年度にエネルギー自給率を65%へ

南相馬市は東日本大震災で津波と原子力発電所の事故による甚大な被害を受けた。現在も市の東半分の地域では放射能の除染作業が続いている。メガソーラーを建設する市有地がある場所も除染作業中の「右田」「海老」「真野(鹿島)」の3地区にある。

復興計画で重要な役割を果たすのが再生可能エネルギーで、2012年度から「南相馬市再生可能エネルギー推進ビジョン」に取り組んできた。2030年代には市内のエネルギー消費量の100%を再生可能エネルギーで供給できるように、2012年度に5%だった自給率を2020年度に65%まで引き上げる目標を掲げている。

再生可能エネルギーの中でも太陽光発電と風力発電の導入ポテンシャルが大きいことから、南相馬市では太陽光発電設備を公共施設に率先して導入するほか、民間企業の誘致を促進してきた。再利用がむずかしい被災地をメガソーラー向けに提供する施策もビジョンに沿ったものである。

南相馬市は2015年3月に全国の自治体で初めて「脱原発都市宣言」を出して、原子力に依存しない街づくりを進めている。省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの積極的利用、さらに災害に強いスマートコミュニティを市内に展開する方針だ。太陽光発電の電力を使って植物工場を増やす構想もあり、農作物の新しい生産方法の開発にも取り組んでいく。

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依田一義のエネルギー情報51

固定価格買取制度による再生可能エネルギーの買取費用は、電力の利用者が電気料金で負担することになっている。政府は毎年度の買取費用を想定したうえで、電気料金に上乗せする賦課金の単価を算定する。2016年度は買取費用を2兆3000億円と見込んで、賦課金の単価を電力1kWh(キロワット時)あたり2.25円に決めた。

【月間の買取費用の推移(単位:億円)】
新しい単価は5月分の電気料金から適用する。標準的な家庭(月間使用量300kWh)では月額675円になり、従来の474円から201円の増額になる。ただし前年度に225円から474円へ249円増えたのと比べると、増加ペースは弱まっている。今後も買取費用の増加に伴って賦課金は上昇するものの、徐々に緩やかになっていく見込みだ
固定価格買取制度が始まった2012年7月から毎年度の買取費用は倍増ペースで伸びてきた。幸いにも2016年度の増加額は4600億円にとどまり、2015年度に9400億円も増えたのと比べて2分の1以下に収まっている。買取費用の大半を占める太陽光発電の買取価格を引き下げてきた効果が出始めた。
月間の買取費用の推移を見てみると、2015年度に入ってから太陽光発電(出力10kW以上)が一気に拡大した。規模が大きいメガソーラーを中心に、固定価格買取制度の認定を受けた発電設備が続々と運転を開始した結果である。
引き続き太陽光発電の買取費用は増加していくが、一方で買取価格が安くなった2013年度以降に認定を受けた発電設備の比率が高まるため、増加ペースは徐々に弱まっていく。2016年度の太陽光発電(10kW以上)の買取価格は24円に決まり、2012年度の40円と比べて6割の水準まで下がった。

原油とLNGは1年で半値に下落
政府は2030年の電源構成(エネルギーミックス)の目標値を設定するにあたって、国全体の電力コストを引き下げる方針を掲げた。そのために再生可能エネルギーの買取費用を2030年に4兆円以下に抑えながら、火力発電と原子力発電の燃料費を4兆円近く削減する計画だ。
すでに再生可能エネルギーの買取費用は2兆円を超えたが、太陽光発電の買取価格を引き下げて4兆円以下に収める方針だ。一方の燃料費は化石燃料の輸入価格がどう変動するか、そして原子力発電の再稼働がどのくらい進むかによるため、長期的に予測することは極めてむずかしい。
少なくとも2016年度は化石燃料の輸入価格の低下と発電量の減少によって燃料費は下がる見通しだ。世界全体で化石燃料が余り始めたことで、火力発電に使う原油・一般炭・LNG(液化天然ガス)の輸入価格は下落傾向が続いている。特に原油とLNGが2015年に入ってから急落した結果、電力会社の燃料費も大幅に減少した。
燃料費の減少に伴って、賦課金と同様に電気料金に上乗せする燃料費調整額が減り続けている。燃料費調整額の単価は3~5カ月前の化石燃料の平均輸入価格をもとに、各電力会社が月ごとに算定する。2015年4月分と2016年4月分の単価を比べると、10社すべてで下がっている。
10社の平均で1年間に燃料費調整単価が3.2円も減った。特にLNGの比率が高い東京電力では単価が5.4円も減り、石炭の比率が高い北陸電力でも1.17円の減少になっている。しかも全社で単価がマイナスになっていて、毎月の電気料金から燃料費調整額を差し引く状況だ。
かりに2016年5月以降の燃料費調整単価が4月分と同じマイナス2.06円(全国平均)で推移すると、標準的な家庭の電気料金は月額で618円安くなる。再生可能エネルギーの賦課金が新単価になって675円上乗せされても、わずか57円の増額で収まる。
加えて火力発電が減少してCO2(二酸化炭素)の排出量を削減できるメリットがある。賦課金の増加ペースが弱まってきたことと考え合わせると、再生可能エネルギーの拡大を過剰に懸念する必要はない。

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依田一義のエネルギー情報39

水上式のメガソーラーを建設したのは、岐阜県に本社があるイビデンだ。創業100年を超える電子部品やセラミック製品のメーカーだが、1912年の設立当時は電力会社で、その後は建材や炭素製品などを生産してきた。愛知県の高浜市で操業中の「衣浦(きぬうら)事業場」の構内に以前は貯木場があり、その跡地がメガソーラーの設置場所になった。
貯木場の池の水面にフロート式の架台を設置して、7680枚の太陽光パネルを浮かべた。合わせて2MW(メガワット)の発電能力で、2月15日に運転を開始している。これまでに稼働した水上式メガソーラーでは埼玉県の「川島太陽と自然のめぐみソーラーパーク」(発電能力7.5MW)に次いで2番目の規模になる。
年間の発電量は240万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して660世帯分に相当する。発電した電力は固定価格買取制度で全量を売電する計画だ。
水上式のメガソーラーは夏の高温時に発電量が低下しにくいことがメリットの1つである。イビデンは太陽光パネルを水上に設置できるフロート式の架台を独自に開発した。素材には軽量で腐食に強い高密度ポリエチレンを採用している。特許を申請中で製品として外販する可能性もある。

100年前に水力発電事業を開始
イビデンの前身は「揖斐川(いびがわ)電力」である。岐阜県内を北から南へ流れる揖斐川の上流は水量が豊富で流れが急なため、水力発電に適している。揖斐川電力は1916年に「西横山発電所」(発電能力3000キロワット)を運転開始して以降、揖斐川の流域に水力発電所を拡大してきた。
業態を変えた現在でも3カ所の水力発電所を運営している。老朽化した発電設備を更新しながら、3カ所を合わせて2万6900キロワットの発電能力がある。従来は発電した電力を生産拠点の事業場で消費していたが、2012年度以降に設備を更新した2カ所は固定価格買取制度の認定を受けて売電できるようになった。3カ所の中で最も古い「東横山発電所」(1921年運転開始)の設備も現在更新中だ。
水力のほかにも事業場の構内に高効率のガスコージェネレーションシステムや太陽光発電システムを導入して発電量を拡大してきた。2014年度の実績では国内の事業場で消費した4億4300万kWhの電力のうち、水力で1億kWh、ガスコージェネで6200万kWhを自家消費する一方、残りの2億8000万kWhを他社から購入した。水力発電の売電量は6500万kWhである。
設備を更新中の東横山発電所が稼働すると、同様に発電した電力を売電する見通しだ。固定価格買取制度を適用できれば、売電収入と電力購入費の差額分がコスト削減につながる。新しい設備を導入して発電能力を増強できるため、CO2(二酸化炭素)の排出量を削減するメリットもある。

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