依田一義のエネルギー情報100

政府と福島県は県内に合計出力500メガワット級の風力発電所群を整備し、2020年までに首都圏に送電を始めることが23日、分かった。11年の東京電力福島第1原発事故後に運転を休止している変電所や送電網を活用する。東京ガスなどが発電事業者として参入を検討している。

計画は福島県を再生可能エネルギーの先進地として再建する「福島新エネ社会構想」の一環。福島県内で比較的安定して風力が得られる沿岸部と阿武隈地方に、2~3メガワット級の風力発電所を数百基整備し、参入事業者を誘致する。発電できる電力は福島第1原発(合計約4700メガワット)の約10分の1に相当する500メガワットに達する見通し。

福島県は候補地の風の強さやその向きを詳細に調べる「風況調査」や、「環境影響評価」(アセスメント)を進めており、両地域の中でどこが建設適地かを調査中だ。風力で発電された電力は首都圏に送電される計画で、福島第1原発事故後に休止している新福島変電所を活用する予定。経済産業省が既存の送電網と各風力発電を結ぶ送電線の整備計画を進めている。

一方、福島県は年内に発電事業者を公募する。参入事業者は1メガワットあたり100万円を政府や福島県、東京電力などで構成する「福島県再生可能エネルギー復興推進協議会」に拠出し、同協議会が復興支援として活用する。参入を検討している東京ガスの広瀬道明社長は「福島のために何かできないかという思いがある。採算、条件が合えばゴーサインを出せる」と述べ、前向きな姿勢を示した。

◇風力発電

太陽光などと並ぶ「再生可能エネルギー」。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、2014年度までの10年間で、国内設置基数は920から2034に、発電できる総容量は92万キロワットから293万キロワットに増えた。12年からは風力で発電した電気を電力会社が一定価格で買い取る制度もある。ただ、一定規模以上の発電設備の設置には、環境影響評価(アセスメント)が必要で、設置までに一定の時間がかかる。自然環境への影響や騒音などを懸念し、地元住民から反対運動が起こるケースもある。国内では風車として回る羽根部分の落下事故が相次いだのを受け、15年に電気事業法が改正。17年度から発電事業者は設備の定期検査を義務づけられる。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報58

九州電力グループが風力発電所を建設する場所は唐津市の北側にある。目の前には玄界灘が広がり、海から強い風が吹いて風力発電に適した場所だ。隣接する玄海町には九州電力の原子力発電所があるため送電網も充実している。
「唐津・鎮西(からつ・ちんぜい)ウィンドファーム(仮称)」は、海の近くに連なる山の上に建設する計画だ。発電事業を担当する九電みらいエナジーによると、1基あたりの発電能力が2~3.5MW(メガワット)の風車を8基ほど設置する。最大で28MWの風力発電所になる。
風力発電の設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を標準の20%で計算すると、最大の構成の場合で年間の発電量は4900万kWh(キロワット時)に達する。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して約1万3000世帯分の電力になる。唐津市の総世帯数(5万世帯)の4分の1に相当する。
設置する風車は羽根(ローター)の直径が80~110メートルで、中心部(ハブ)の高さは70~90メートルを想定している。風車の最高到達点は110~140メートルになる。風力発電では発電能力が10MW以上の場合には、環境影響評価の手続きを完了することが義務づけられている。
九電みらいエナジーは3月10日に「計画段階環境配慮書」を経済産業大臣に提出して環境影響評価の手続きに入った。今後は「方法書」「準備書」「評価書」の順に、環境に対する影響評価と保全対策をまとめながら、国や地元の意見を取り入れて建設計画を確定させる。
風力発電の環境影響評価には今のところ3年程度かかる。九電みらいエナジーは環境影響評価の手続きを完了した後に、事業化を最終的に判断して設計・建設に入る。着工から運転開始まで2年を予定している。手続きと建設工事が順調に進むと、2020年には運転を開始できる見通しだ。

株式会社Z-ONE