依田一義のエネルギー情報77

川崎重工業、岩谷産業、シェルジャパン、電源開発(Jパワー)の4社は、共同で設立した「技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構」(HySTRA)がCO2フリー水素サプライチェーンを構築する実証事業を実施すると発表した。
水素エネルギーを社会に普及させるためには、安価で安定的にCO2フリー水素を供給することが重要で、2014年6月に経済産業省が発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、CO2フリー水素サプライチェーンの確立が掲げられている。
水素サプライチェーンの実現に取り組むため、川崎重工を主幹事とする岩谷産業、Jパワーの3社は共同で実証事業を提案し、2015年6月にNEDOの「未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業」に採択された。
今回、シェルジャパンを新たに加えて設立したHySTRAに実証事業を移管して運営する。将来の海外からの商用液化水素チェーン実現を見通すため、HySTRAは、「褐炭ガス化技術」のパートと、「液化水素の長距離大量輸送技術」、「液化水素荷役技術」の2つのパートで構成、2020年度までに各パートにおける技術実証と、商用化に向けた課題の抽出を行うことを目的として活動する。
各社の役割では、国内で石炭ガス化複合発電(IGCC)に取り組んでいるJパワーはこれまで蓄積したガス化技術を活かし、「褐炭ガス化技術」の技術実証に主体的に取り組む。
LNG貯槽・受入基地の建設、種子島のロケット射点設備の建設など、極低温機器サプライヤーである川崎重工と、国内唯一の液化水素製造・供給事業者である岩谷産業、LNGのサプライチェーンやLNG船の運航に実績があるロイヤルダッチシェルの日本法人であるシェルジャパンは、共同で「液化水素の長距離大量輸送技術」と「液化水素荷役技術」の技術実証を担当する。
今後、4社がHySTRAのもとで各社の強みを持ち寄り、研究開発や実証事業を効率的に進めていく。

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依田一義のエネルギー情報18

 清水建設が開発するのは、建物付帯型の水素エネルギー利用システムである。太陽光などの再生可能エネルギーで作った電力のうち、建物内で消費できなかった余剰電力を最大限に活用できるようにする。
システムの中核になるのは「水素吸蔵合金タンク」である。余剰電力を使って製造した水素を貯蔵・放出して、燃料電池で電力と熱を供給する仕組みだ。蓄電池と同様の役割を果たせることから、天候によって出力が変動する再生可能エネルギーの電力を安定化させる用途にも適用できる。
水素吸蔵合金は気体の水素を輸送・貯蔵する技術の1つとして開発が進められている。金属には水素に反応しやすいものと反応しにくいものがある。反応しやすい金属は水素を吸収する能力が高くて、放出する能力が低い。逆に反応しにくい金属は水素を吸収する能力が低くて、放出する能力が高い。両方のタイプの金属を使って合金を作ると、水素の吸収・放出能力ともに高い性質が生まれる。
国内では産業技術総合研究所(産総研)が10年ほど前から水素貯蔵合金の研究開発に取り組んできた。水素貯蔵合金の課題は装置の大きさと製造コストにある。清水建設は産総研と共同で、合金の材料や配合比を変えながらコンパクト化とコストダウンを図る。
水素の吸収能力が高い金属にはチタン、マグネシウム、ランタンなどがあり、放出能力が高い金属には鉄、コバルト、ニッケルなどがある。産総研ではランタンとニッケルを組み合わせた水素吸蔵合金を開発している。

2020年のオリンピックまでに実用化
水素吸蔵合金を使うと、気体の水素を常温・常圧の状態で1000倍以上の容量まで貯蔵することができる。水素の貯蔵方法には気体のまま圧縮する方法や、マイナス250度以下の低温で液化する方法もある。圧縮すると150倍程度、液化すると800倍程度の容量まで水素を貯蔵することが可能だ。こうした方式と比べて水素吸蔵合金は貯蔵容量が大きく、常温・常圧で扱えるメリットもある。
さらに水素吸蔵合金は水素を吸収する時に熱を放出する一方、逆に水素を放出する時には熱を吸収する特性がある。この熱のエネルギーが大きいために、建物内の空調などに熱を利用することができる。放出した水素を使って燃料電池で電力と熱を供給する以外に、水素吸蔵合金の排熱と吸熱を生かしてエネルギーの利用効率を高めることが可能になる。
清水建設は独自に開発した「スマートBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)」を使って、水素貯蔵合金タンクと燃料電池を組み合わせた水素エネルギー利用システムを構築する。福島県の郡山市にある産総研の「福島再生可能エネルギー研究所」の構内に実証システムを設置する予定だ。
今年の秋までにシステムの設置を完了して、2018年3月まで実証運転を続ける。その結果をもとに実用レベルの水素エネルギー利用システムを開発して、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに実際の建物や市街地に導入することを目指す。国が推進する水素社会を新しいシステムで広げていく。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報17

経済産業省と独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、水素・燃料電池関連の市場規模は、国内だけでも2030年に1兆円程度、2050年に8兆円程度に拡大すると試算されている。水素エネルギーの利活用技術の適用可能性は幅広く、燃料電池自動車や既に実用化段階にある家庭用燃料電池システムだけでなく、船舶や鉄道などを含む他の輸送分野、水素発電など、我が国のエネルギー消費分野の多くに対応し得る潜在的なポテンシャルがあるとされている。
今回、清水建設 <1803> は、国立研究開発法人産業技術総合研究所との共同研究として、施設内で使用する太陽光などの再生可能エネルギーの余剰電力を水素に代替して貯蔵し、必要に応じて放出・発電する水素エネルギー利用システムの研究開発に着手した。
共同研究では、水素を利用して再生可能エネルギーを効率よく貯蔵・利用でき、かつ水素社会に対応できる建物付帯型のコンパクトで安全な水素エネルギー利用システムの開発に取り組む。共同研究期間は2年間の予定で、今後、産業技術総合研究所の福島再生可能エネルギー研究所(FREA)を拠点に研究活動を推進する。
水素エネルギー利用システムとは、余剰電力で水を電気分解して水素を製造、水素吸蔵合金により水素を貯蔵、必要の都度、水素を放出させて酸素との化学反応により電気と熱を取り出すもの。水素貯蔵については、産業技術総合研究所が知見を蓄積してきた水素吸蔵合金をベースに合金材料や配合比の最適化を図り、最大で体積の1,000倍の水素を吸蔵するという合金の特性を最大限活かし、コンパクトかつ安全な貯蔵手段を確立。そのうえで、清水建設が開発したスマートBEMSにより、再生可能エネルギーの発電状況と建物の電力・熱需要を勘案して、水素の製造、貯蔵、放出等を制御する技術を確立する。
計画では、約2億5,000万円を投じて、2016年秋までに産業技術総合研究所の福島再生可能エネルギー研究所内に実証システムを構築し、2018年3月まで実証運転を行う。その後、実証運転で得た各種データをフィードバックしてスマートBEMS制御の水素エネルギー利用システムを完成させ、2020年までに建物、街区への導入を目指す。

株式会社Z-ONE