依田一義のエネルギー情報19

福岡県の東部にある「豊前(ぶぜん)発電所」の構内の空きスペースに蓄電システムを導入して、3月3日に運用を開始した。国から「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」を受託したプロジェクトで、2017年3月まで実証試験を実施する予定だ。九州で大きな課題になっている再生可能エネルギーの拡大に取り組んでいく。
採用した蓄電池の種類はNAS(ナトリウム硫黄)電池で、大容量の蓄電システムを低コストで構築できる利点がある。NAS電池1台で最大200kW(キロワット)の電力を充電・放電することが可能だ。全体で252台を導入して、合計すると5万400kWまで対応できる。
蓄電システム全体で貯蔵できる電力量は30万kWh(キロワット時)にのぼる。九州電力によると世界で最大級の容量を備えた蓄電システムである。一般家庭の使用量(1日あたり10kWh)に換算して3万世帯分の電力を調整可能だ。交流の電力を直流に変換して蓄電池に充電する必要があるため、変換用のパワーコンディショナー(PCS、1台あたりの出力800kW)を63台も導入する大規模な構成になった。

春の需要が少ない時期に導入効果
九州電力が蓄電システムを使って取り組む実証試験のテーマは主に4つある。最も重要なテーマは電力の需給バランスを安定化させることだ。九州電力の管内では春の電力需要が少ない時期になると、昼間に太陽光発電の電力が大量に余って需給バランスを不安定にさせる問題が生じる。この余剰電力を蓄電システムに充電して夜間に放電する方法で需給バランスを調整する。
太陽光や風力発電では天候によって出力が変動するため、送配電ネットワークを流れる電力の電圧や周波数が影響を受ける場合もある。蓄電システムを使って電圧制御と周波数調整に取り組むことが第2・第3の実証テーマになる。さらに第4のテーマとして蓄電システムの効率的な運用方法についても検証する予定だ。
豊前発電所に導入した蓄電システムは三菱電機が構築した。日本ガイシ製のコンテナ型NAS電池を2段に積んで設置スペースを削減している。合計4台のNAS電池コンテナで構成したブロックを63カ所に配置した。全体の設置スペースは1万4000平方メートル(140メートル×100メートル)である。
これまで九州電力は佐賀県の玄海町と鹿児島県の薩摩川内市で、容量の小さいリチウムイオン電池を使って需給バランスを調整する実証試験を続けてきた。さらに長崎県の対馬や鹿児島県の種子島などの離島でも、容量の大きいリチウムイオン電池を導入して同様の実証に取り組んでいる。
ただし蓄電池に充電できる容量は対馬の1430kWhが最大で、需給バランスを調整できる範囲は限られていた。豊前発電所の蓄電システムは200倍以上の容量になるため、調整できる電力量は格段に大きい。国内では北海道電力と東北電力が国の実証事業の一環で大容量の蓄電システムを変電所に導入している。
北海道電力は南部の安平町(あびらちょう)にある「南早来(みなみはやきた)変電所」に、レドックスフローと呼ぶ大容量の蓄電池を設置して2015年12月に実証試験を開始した。蓄電池の容量は6万kWhで、豊前発電所の5分の1である。東北電力は仙台市の「西仙台変電所」に容量2万kWhのリチウムイオン電池を設置して、2015年2月に営業運転を開始している。

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