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先進29カ国で構成するIEA(国際エネルギー機関)が世界のエネルギー投資動向を「World Energy Investment 2016」にまとめて9月14日に発表した。このレポートで2015年の総投資額が1.8兆ドル(約180兆円)にとどまり、前年から8%も減少したことが明らかになった。

投資額の内訳を見ると、全体の50%を石油・ガス・石炭が占めるものの、火力発電と合わせて前年から6ポイント低下した。代わって再生可能エネルギーが1ポイント増の17%、電力ネットワークが2%増の14%、省エネルギーに対する投資額も2ポイント増の12%へ伸びている。世界のエネルギー産業がCO2(二酸化炭素)の削減に向けて、構造変革(エネルギーシフト)を進めていることを示す結果だ。

再生可能エネルギーの発電設備に対する投資額は2900億ドル(約29兆円)で、2011年から2015年にかけて横ばいの状態が続いている。2015年の投資額のうち風力と太陽光が3分の1ずつを占めた。IEAによると洋上風力の投資額が伸びている。

発電設備に対する投資額は横ばいながら、投資がもたらす再生可能エネルギーの発電量は格段に増えている。2011年と比べて2015年に投資した発電設備の発電量は33%も拡大する。太陽光をはじめ発電設備のコストが低下して、同じ投資額でも発電能力の大きい設備を建設できるようになったためだ。この傾向は今後も続いていく。

蓄電池の投資額は6年間で10倍に拡大

再生可能エネルギーの発電設備が拡大するのに伴って、電力ネットワークの投資も増えている。2015年の全世界の投資額は2600億ドル(約26兆円)で、前年から14%増の大幅な伸びを示した。投資額のうち55%はネットワークの新設、35%は古いネットワークの更新に、残り10%が再生可能エネルギーの発電設備をネットワークに統合する分野に使われた。

その中でも特に伸びているのは電力ネットワークの増強に必要な蓄電池に対する投資である。2010年から2015年の6年間で10倍に拡大して10億ドル(約1000億円)を超えた。それでも電力ネットワークの投資額に占める割合は0.4%に過ぎず、今後さらに増えていくことは確実だ。

一方で原子力発電所の建設に対する投資は流動的である。2015年に建設を開始した原子力発電所の規模は約900万kW(キロワット)だった。そのうち7割以上を中国が占めている。2010年までは中国を筆頭に建設プロジェクトが拡大してきたが、福島第一原子力発電所の事故を契機に全世界で縮小傾向が始まった。

世界各国でCO2削減の動きが広がり、2015年には石油・ガスの開発投資にも急ブレーキがかかった。投資額は5830億ドル(約60兆円)と巨大ながら、前年から25%も減っている。さらに2016年にも24%の減少が見込まれていて、2017年以降も減り続ける可能性が大きい。IEAによると3年連続で石油・ガスの開発投資が減少したことは過去に1度もない。

石油・ガスから再生可能エネルギーを中心とする新しい産業構造にシフトしていけば、発電設備が排出するCO2は減っていく。2015年に全世界で運転を開始した発電設備のCO2排出係数は平均で420kg-CO2/MWh(CO2換算キログラム/1000キロワット時)だった。従来の発電設備の平均値(530kg-CO2/MWh)から20%も少なくなっている。

ただしIEAの分析では2014年に新設した発電設備と比べるとCO2排出係数は上昇している。2015年は中国を中心に石炭火力発電が増加したために、全世界の再生可能エネルギーの拡大効果を相殺してしまった。

日本国内のCO2排出係数は2014年度の時点で平均579kg-CO2/MWhだった。2015年度は火力発電の減少によってCO2排出係数が低下することは確実だが、それでも全世界の平均値を上回る見込みだ。CO2排出係数を引き下げるためには、省エネルギーの効果で国全体の発電量を減らしながら、火力発電を縮小する方策が最も有効である。

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