依田一義の不動産開発情報65

新日鉄興和不動産(東京都港区)は、最新の大規模オフィスに匹敵する設備を兼備した中規模オフィスビル事業に参入する。「BIZCORE(ビズコア)」シリーズとして東京の都心部で展開し、第1弾は神保町(同千代田区)で供給。年間2、3棟ペースでの開発を目指す。高級タイプの中規模オフィス市場では野村不動産が「PMO」で先行。サンケイビルも「S-GATE(エスゲート)」の名称で開発に注力している。新日鉄興和不動産の参入で市場競争は激しさを増しそうだ。

同社は都内に、築20年を超えた約30棟の中小オフィスビルを所有している。事業化に当たっては「これらのビルのテナントに対するマーケティングをしっかり行って、プランに反映させた」(奈良敦・ビル事業本部都市再生部長)。

2017年11月に完成予定の「BIZCORE神保町」は地上9階建てで、延べ床面積は約8900平方メートル。眺望性を重視するため屋上庭園を配置し、一つ一つの企業の城が積み上がる「積層感」をイメージさせるような、外観デザインを創り上げていく。

また、防災対策の一環として建築基準法で必要とされる強度の1.25倍以上の耐力を確保。天井の耐震化も図った。事業継続計画(BCP)にも配慮。大規模災害の広域停電時には、非常用発電機によって共用部の防災機能維持とテナント専有部への電力供給を行う。危機管理対策も強化し、メインエントランスから各フロアの室内に至るまで、最大5段階のセキュリティーを設けた。

シリーズ第2弾以降のプロジェクトとしては赤坂、築地、渋谷エリアで開発が進められている。シリーズでは屋上庭園以外の部分について、基本的に同じ仕様とする計画だ。主なターゲットは中堅・中小企業やベンチャーなど。また、セキュリティーやBCPで高度な対策が求められる、大企業系のグループ各社のニーズも強いとみている。

新日鉄興和不動産が新たに攻勢をかける事業分野では、野村不動産の動きが顕著だ。具体的には16年から19年までに新規の15棟を計画。供給済みを含めるとシリーズ累計32棟となる。サンケイビルも年間3、4棟を目安にシリーズ展開している。

一方、大手不動産の間では、成長力が著しいベンチャーを自社のテナントとして呼び込もうとする動きが活発化している。三井不動産は日本橋などで、起業家が集う施設を運営。ベンチャーと大企業の連携を促進するためのプログラムを提供したり、ベンチャー向けの投資ファンドを立ち上げている。

三菱地所は大手町に、海外の成長企業や国内の先端ベンチャーを誘致することでビジネス支援を行う「グローバルビジネスハブ」を設立した。森ビルは赤坂のアークヒルズに投資家と起業家の交流拠点を開設したほか、虎ノ門ヒルズではコミュニティーづくりの支援を意識した取り組みに力を入れる。

ベンチャーの聖地として君臨していた渋谷も、18年完成の旧東急プラザ跡地の複合ビルを皮切りに、27年までオフィスビルの開業が相次ぐ。オフィスの供給過剰問題を見据え、有力ベンチャーや中堅会社をめぐる綱引き合戦が加速するのは必至だ。

こうした中、新日鉄興和不動産の奈良部長は「中小規模オフィスのうち築20年以上のビルは8割を占めている。潜在的なマーケットは大きい」と高級タイプの中規模オフィスビル市場の可能性を指摘している。

株式会社Z-ONE

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