依田一義のエネルギー情報157

太陽光発電システムを開発・販売するLooop(ループ)が4月1日に開始した「Looopでんき」の料金体系は衝撃的だった。電力の世界で常識になっていた「基本料金(月額固定)+電力量料金(従量課金)」の体系をとらず、「基本料金0円」の斬新なプランを打ち出したからだ。

当初は東京・中部・関西電力の管内から電力の供給を開始して、9月末の時点で契約件数が2万5000件を突破した。さらに9月から12月にかけて、東北・九州・北海道・中国電力の管内へサービス範囲を拡大していく。

「Looopでんき」には家庭向けの「おうちプラン」と事務所・商店向けの「ビジネスプラン」の2種類がある。どちらも基本料金0円に加えて、従量制の電力量料金の単価を月間の使用量に関係なく一律に設定した。電力会社の家庭向けの標準的なプランでは使用量が多くなるに従って単価は3段階で高くなっていく。「おうちプラン」は使用量の多い家庭ほど毎月の電気料金が割安になる仕組みだ。

10月6日にサービスを開始した九州電力の管内で電気料金を比較してみる。契約電力が40A(アンペア)で月間使用量が520kWh(キロワット時)の家庭の場合に、九州電力の標準メニューである「従量電灯B」よりも月額で992円、年間だと1万1904円安くなる。一般的な家庭(30A、300kWh)の使用量で比べても、「おうちプラン」は月額の電気料金が6900円で、「従量電灯B」の7021円よりも安い。

「おうちプラン」の単価は各地域の電力会社が「従量電灯」で設定している3段料金のうち、2段目の単価とほぼ同じ水準だ。たとえば東京電力の管内では「従量電灯B」の26円/kWhと同額で、九州電力の管内では「従量電灯B」(22.69円/kWh)よりも少し高い23円/kWhである。月間の使用量が300kWhを超えて増えていくほど、「おうちプラン」のほうが割安になる。

原子力が入る九州電力と電源構成の差も

家庭と比べて電力の使用量が多い事務所や商店向けの「ビジネスプラン」では、電力量料金の単価を1円/kWh高く設定した(北海道は2円/kWh高い)。電力会社が事務所・商店向けに提供している「従量電灯」の単価は家庭向けと同額のため、使用量の少ない事務所や商店だと「ビジネスプラン」のほうが割高になる場合がある。

Looopが試算した飲食店の例では、契約電力が8kVA(キロボルトアンペア)で月間の使用量が2183kWhの場合に、月額の電気料金が九州電力の「従量電灯C」と比べて4349円安くなる。資源エネルギー庁が一般的な飲食店のエネルギー利用状況を分析したレポートによると、月275時間の営業時間の居酒屋(床面積366平方メートル)では月間に平均2315kWhの電力を使っている。

九州電力も2016年4月1日から家庭向けと事務所・商店向けに新しい料金プランを提供している。家庭向けの「スマートファミリープラン」では基本料金が「従量電灯B」と同額で、電力量料金の3段目の単価を1.08円/kWh安くした。使用量の多い家庭が小売電気事業者に移行することを防ぐ対策だが、さほど魅力的な値引き幅とは言いがたい。

これに対して「スマートビジネスプラン」は基本料金を据え置きながら、電力量料金の単価を一律の22.63円/kWhに設定した。Looopの「ビジネスプラン」の24円/kWhよりも低いため、使用量が多い事務所・商店では電気料金が割安になる。契約電力が8kVAで比較すると、月間の使用量が1700kWhを超えてから九州電力の「スマートビジネスプラン」のほうが安くなる計算だ。

両社のプランは単価の差に加えて、提供する電力の電源構成にも違いがある。Looopは家庭を中心に太陽光発電の電力を高く買い取るサービスを実施して、再生可能エネルギー(FIT電気)の比率を高める方針だ。2016年4~9月の計画値ではFIT電気を20%、そのほかの再生可能エネルギーを6%、合わせて26%を再生可能エネルギー由来の電力で供給する。

一方の九州電力は全国に先がけて原子力発電所を稼働させたことから、2015年度の電源構成のうち10%を原子力が占めている。再生可能エネルギーはFIT電気を加えて14%である。九州では太陽光を中心にFIT電気が増加中だが、2016年度からは原子力の稼働率が向上してFIT電気を上回る見通しだ。

家庭を中心に原子力による電力の購入を嫌う層は少なくない。他の地域と比べて九州電力の管内で「Looopでんき」の契約数がどれくらい伸びるか注目である

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報126

太陽光発電システム関連事業を展開するLooopは、同社の住宅太陽光発電システム「Looop Home」の購入者を対象に、再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)より10円高く電力を買い取る「Looop Home プレミアム買取キャンペーン」を開始した。これにより住宅用太陽光発電システムの導入促進および同社の電力小売サービス「Looopでんき」の自然エネルギー由来の電力の仕入れを強化する(図1)。

Looopは2016年5月からLooop Homeを販売している。FITより10円高い価格での買い取りは、住宅用太陽光発電システムメーカーとしては業界最高水準となるという。同社では「通常よりも高値での電力買い取りは、電力市場で発電から供給までの一気通貫した事業を持つLooopだからこそ可能な取り組みだ」と自信を示す。

同社は2015年12月に高圧向け電力小売サービスを開始し、2016年4月から一般家庭を含む低圧向け電力小売サービスであるLooopでんきの提供を開始した。太陽光発電システムメーカーであり、小売電気事業者でもあることが、Looop Homeのユーザーから買い取った電力をLooopでんきの電源として活用することを可能にしている。

キャンペーンへの申込期間は2016年7月26日~12月31日まで。プレミアム買取対象期間は売電開始から12カ月間。契約期間は2年間の自動更新となり、プレミアム買取期間の終了後は、FIT価格での買い取りに移行する。キャンペーンの対象条件は、北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、関西電力、中国電力、九州電力管内で、10kW(キロワット)未満のLooop Homeシステムの購入者だ。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー住宅情報

積水化学工業では、1997年以降太陽光発電システム(PV)搭載住宅を積極的に展開。2003年に光熱費ゼロハイム、2012年には大容量PV、蓄電池、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の3点セットを標準搭載した「進・スマートハイム」を発売。2013年に標準的な規模の建物でもゼロエネルギー(使用エネルギーゼロ)を実現できる「スマートパワーステーション」シリーズ、2014年には電気自動車と連携した「VtoHeim」シリーズを投入するなど、スマートハウス分野に積極的に取り組んできた。
今回の調査は、これらの導入実績を元に、2014年1~12月に入居済みの太陽光発電システム搭載セキスイハイムのうち、3078邸の2015年1~12月の消費電力量・発電電力量・電力量収支について、設置されているコミュニケーション型HEMS「スマートハイム・ナビ」のデータを活用し分析を行ったものである。

●独自の「家電込みゼロエネルギー」を設置
家庭での電力消費量の削減については、2020年から標準的な新築住宅においてZEH(ネットゼロエネルギーハウス)が義務付けられるなど、大きな注目を集めている。
ZEHは、2015年12月に「ZEHロードマップ検討委員会」により、ZEHの定義が明確化された。定義としては「運用時ではなく設計時で評価する」とされ、また、ZEHの判断基準の条件となる基準一次エネルギー消費量、設計一次エネルギー消費量の対象は「暖冷房、換気、給湯、照明とする」(家電消費量は含まない)などとなっている。
一方で積水化学工業では、2010年から「PV搭載住宅の電力量収支実邸調査」を実施してきた。これはPVの運用実績によりその貢献度合いを推し量るものだが、ZEHの定義前から行っていたため一部で定義が異なる点が存在する。異なる点は「運用時の評価」と「家電も含めたエネルギー収支」(=家電込みのエネルギー収支)で、「運用時の評価」には「家電込みのエネルギー収支」が不可欠のため、今回の同社調査では国のZEH判断基準の定義に準拠した評価と、当社独自の「家電込みエネルギー収支(運用時)」による評価を加えて実施している。具体的には「家電込みゼロエネルギー」「ZEH相当」「Nearly ZEH相当」「非ZEH」の4つの区分でゼロエネルギー達成度を評価している※)。
※)ZEH相当、Nearly ZEH相当とも、国のZEH判定に使う計算式を準用。また、今回の調査では家電消費電力を分離して測定できていないので、省エネルギー基準における家電消費電力相当(120平方メートル以上の住宅で年間2173キロワット時)を使ってゼロエネルギー達成度を計算

●ZEH相当以上のゼロエネルギー邸が59%に
調査結果によると使用する家電を含めた「家電込みゼロエネルギー邸」が前年比から15%増え32%に拡大。またZEH相当邸が27%(前年30%)となり、ZEH相当以上の世帯が59%に達していることが分かった。この数値は47%だった前年に比べ12%の増加となる。

●家電込みゼロエネルギー邸は年間光熱費収支が約17万8500円プラスに
ZEH相当以上の世帯は1826邸となり家族数の平均値は3.4人となった。この数値は前年と同じである。中央値を見てみると、PV搭載容量5.94㎾(キロワット)、発電電力量6984㎾h(キロワット時)/年、消費電力量6708㎾h/年となり、電力量収支はマイナス276㎾h/年となった。このうち、家電込みゼロエネルギー世帯は978邸で、家族数の平均値は3.4人(前年は3.1人)、中央値はPV搭載容量7.92㎾、発電電力量9073㎾h/年、消費電力量6177㎾h/年となり、電力量収支はマイナス2896㎾h/年となっている。
光熱費に換算すると「ZEH相当以上邸」の中央値は、売電で電力量5363㎾h/年、収入19万8431円となった。また、買電で電力量5087㎾h/年、支出10万9371円となり、光熱費の収支はプラス8万9061円となる。「家電込みゼロエネルギー邸」の中央値は、売電で電力量7501㎾h/年、収入27万7537円。また、買電で電力量4605㎾h/年、支出9万9008円となり、光熱費の収支はプラス17万8530円となったという。
ZEHなど環境対応住宅は環境性能などに注目が集まるが、それだけでなくユーザーの収益面でも高パフォーマンスが発揮されていることが明らかとなっている

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報52

電力を購入するユーザーの住宅屋根などに太陽光発電設備を「無償」で設置し、そこで発電した電力を活用するユニークな電力小売サービスが登場した。日本エコシステムが2016年3月16日から申込受付を開始した「じぶん電力」だ。
日本エコシステムは情報通信建設会社の日本コムシスのグループ会社で、1997年に設立。太陽光発電システムの販売施工の他、蓄電池やオール電化家電の販売などのエネルギーシステム事業を展開している。2016年2月に小売電気事業者登録を済ませた同社は、2016年3月18日に会見を開き、新事業として開始するじぶん電力の詳細と今後の事業展開方針について説明した。

●太陽光発電システムを無償設置
まず、じぶん電力を利用するユーザー側の視点から見ていく。じぶん電力に申込を行ったユーザーの住宅屋根に、日本エコシステムが無償で太陽光発電システムを設置する。パネルは全てソーラーフロンティア製のパネルを利用する。発電システムと発電した電力の所有権は日本エコシステムに帰属し、ユーザー側は日本コムシスに使用電力量に応じた料金を支払うことで発電した電力を自宅で利用できる。なお、この電力は停電時などの非常時には無料で利用可能だ。
しかし、太陽光発電システムの場合、夜間など発電できない時間帯も発生する。こうした時間帯は新電力最大手のエネットから調達した電力を、日本エコシステムを通じて提供し補う仕組みになっている。ユーザーは時間帯に応じて「太陽光発電分」とエネットの電力を利用した「供給分」の2つの電力を購入する形になり、それぞれ料金体系も異なる。
じぶん電力の契約期間は20年間で、その間の発電システムの定期メンテナンスなどは全て日本コムシス側が担当する。ユーザー側に費用は発生しない。なお、発電システムの遠隔監視にはNTTスマイルエナジーの「エコめがね」を採用した。
このサービスの大きな特徴の1つとなっているのが、契約期間の20年間が経過すると設置した太陽光発電システムはユーザー側に譲渡される点だ。ただし途中解約の場合は、契約経過期間に応じた価格でユーザー側が太陽光発電システムを買い取る必要がある。

●これまでの実績を活用、環境価値の高い電力を買える時代に
会見に登壇した日本エコシステム 代表取締役社長の白髭博司氏は、じぶん電力について「日本エコシステムはこれまで全国で住宅向けを中心に約3万6000件の太陽光発電システムの販売・施工実績がある。こうしたノウハウを活用したじぶん電力は、CO2排出量削減の観点からも非常に意義のある取り組みだと捉えている。住宅に太陽光発電システムを導入したいが、初期費用の高さで断念する方も多い。そこで『電気料金を支払うだけで環境価値の高い電気を購入できる』という新しいモデルを提案しようと考えた」と語った。

●全国7地域で提供、現在より数%安い料金に
気になる料金プランはどうなっているのか。先述したようにじぶん電力の電力料金はエネットから調達して供給する「供給分」と「太陽光発電分」の2つから構成される。供給分の電力料金は、一般的な電力会社の現行プラント同じく「基本料金+電力量料金」で構成する。
一例として東京電力管内で提供する料金プランと比較してみる。東京電力の従来電灯Bに相当する「じぶん電力Aプラン」の供給分の電力料金は従来電灯Bより基本料金(30〜60A)は約40〜80円、電力量料金は段階に応じて1kWh(キロワット時)当たり0.5〜1.5円程度安く設定している。
一方、設置した太陽光発電システムで発電した電力の料金は、1kWh当たり27円だ。基本料金などは発生しない。東京電力の従来電灯Bの300kWh以降の電力量単価より2.93円安い。なお、東京電力の場合従来電灯Cに相当し、1kVA(キロボルトアンペア)ごとの契約量で基本料金が決まる「じぶん電力Bプラン」も用意する。
このようにじぶん電力は、供給分、太陽光発電分ともに現行の電力会社の料金プランより安い単価となっている。家庭や地域によって毎月の供給分と太陽光発電分の購入比率は異なると予想されるが、2つとも料金単価が現行の電力会社のが設定する300kWh以降の電力量料金単価より安い。電力使用量のが多い家庭であればあるほど、よりお得になるプランといえるだろう。
じぶん電力はまず北海道、青森県、秋田県、岩手県、山形県、新潟県、富山県、石川県、福井県、沖縄県を除く地域で提供する。電気料金の目安について日本エコシステム 取締役 企画開発部長を務める石原敦夫氏は「地域ごとに異なるが、現在の電力会社が提供している料金プランより、標準的な家庭で平均数%安くなるように単価を設定した。しかし料金の安さを大きな差別化要因とするサービスではないと捉えている」としている。

●余剰電力を売電して収益に
日本エコシステムではじぶん電力のターゲットとなるユーザー層についてどう捉えているのか。資源エネルギー庁の調査によれば家庭用太陽光発電システムの導入余地がある既築住宅は全国で1200万戸ある。このうち現在設置が進んでいるの12.1%に相当する170万戸にとどまっている。固定買取価格制度(FIT制度)が始まってから産業用の太陽光発電設備は急速に拡大したが、10kW未満の住宅向けシステムの普及は伸びているとはいえない状況だ。
一方、日本エコシステムでは今後2年の間に自宅に太陽光発電設備を購入したいというユーザー数は52.8万戸、そして興味はあるが未設置・非購入となっているユーザー数を210万戸と見込んでいるという。石原氏は「ユーザーが太陽光発電システムの設置に踏みとどまってしまう理由の大きな要因が『初期費用の高さ』にある。そこでじぶん電力ではこうした『興味はあるが、費用の問題で導入を断念していた』というユーザーを潜在顧客と捉え、開拓を進めていく」と語っている。
対象顧客としては、太陽光発電システムの設置を必要とするため、基本的には戸建住宅を中心としつつ、低圧配線を利用する幼稚園などの小規模な法人施設も対象に顧客開拓を進めていく方針だ。初年度から2年間の合計で約1万件の獲得を目指す。初年度は4000件、次年度は6000件の獲得を目指し、そして5年後には10万件まで拡大したい考えだ。

●将来は外部資金の活用も視野に
じぶん電力はまず「無償で太陽光発電システムを設置する」というビジネスモデルの特性上、大きな初期投資が必要になる事業だ。5年後に10万件と考えた場合、合計で数千億円規模の投資額が必要になることも想定される。
日本エコシステム側の収益は毎月の電気料金がベースとなるが、もう1つの収益源の柱としてFIT制度による売電も活用する。日中などに太陽光発電システムで発電する電力量が、その住宅の電力使用量を上回る場合、その余剰電力を10年間にわたって余剰売電する仕組みだ。
石原氏は「じぶん電力は一般的な小売電力事業と異なり設備施工も必要になる。こうした部分も見込んで、2年間で1万棟という目標を掲げた。5年後に10万棟を実現するには資金調達なども必要になると考えているが、まずこの2年間の中でコスト削減できる部分などを洗い出し、将来的に外部資金を活用しても事業運営が成り立つ利益率を目指していく」と語っている。
日本エコシステムでは今後、通常の太陽光発電システムの販売・施工と、無償でシステムを設置し電気料金や売電収入で利益を得るじぶん電力の2つの事業を同時並行で運営していくことになる。
石原氏は「ユーザーのニーズもビジネスモデルも異なるため、どちらがわれわれにとって良いということは一概にはいえない。しかし太陽光発電市場がグリッドパリティを迎え、本当の意味で太陽光が『電源』となるためには、じぶん電力のような『システムではなく電気を売る』といったモデルに移っていくのは必然だと捉えている。米国では先行してこうしたモデルが確立しつつある。日本でも時代の状況としてはこうした新しいモデルに移っていくのではないかと考えている」と述べている。

株式会社Z-ONE