依田一義のエネルギー情報75

東北電力は、再生可能エネルギーの導入拡大に向け、水素製造に関する研究を行うと発表した。4月から研究システムの詳細設計を開始し、
機器を据え付けた後、2017年3月から水素製造などの研究を開始する予定。
再生可能エネルギーの導入拡大では、気象条件による出力変動の調整が大きな課題となっている。同社では、再生可能エネルギーの導入拡大に向け、
国の実証事業として、蓄電池技術を活用した出力変動対策に取り組んできた。
今回の水素製造に関する研究は、蓄電池による対策と同様の効果を期待して行うもの。研究では、同社研究開発センター(仙台市青葉区)に、新たに太陽光発電設備や水素製造装置を設置する。
太陽光発電による電気を使って水素を製造・貯蔵し、この水素を燃料にして研究開発センター向けの電力を発電する計画。
出力変動の大きい電気を水素製造に使用・吸収することで、水素製造技術が蓄電池と同様に再生可能エネルギーの導入拡大に伴う出力変動対策として適用可能かを検証する。
水素エネルギーは、省エネルギーやエネルギーセキュリティの向上、環境負荷の低減などの面から、日本の重要なエネルギー源として期待されており、国も水素社会実現に向けた取り組みを進めている。
また、東北エリアでは、水素社会実現に向けた取り組みが進められており、同社では、今回の研究を通じて得られた知見や成果を提供していく方針。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報51

固定価格買取制度による再生可能エネルギーの買取費用は、電力の利用者が電気料金で負担することになっている。政府は毎年度の買取費用を想定したうえで、電気料金に上乗せする賦課金の単価を算定する。2016年度は買取費用を2兆3000億円と見込んで、賦課金の単価を電力1kWh(キロワット時)あたり2.25円に決めた。

【月間の買取費用の推移(単位:億円)】
新しい単価は5月分の電気料金から適用する。標準的な家庭(月間使用量300kWh)では月額675円になり、従来の474円から201円の増額になる。ただし前年度に225円から474円へ249円増えたのと比べると、増加ペースは弱まっている。今後も買取費用の増加に伴って賦課金は上昇するものの、徐々に緩やかになっていく見込みだ
固定価格買取制度が始まった2012年7月から毎年度の買取費用は倍増ペースで伸びてきた。幸いにも2016年度の増加額は4600億円にとどまり、2015年度に9400億円も増えたのと比べて2分の1以下に収まっている。買取費用の大半を占める太陽光発電の買取価格を引き下げてきた効果が出始めた。
月間の買取費用の推移を見てみると、2015年度に入ってから太陽光発電(出力10kW以上)が一気に拡大した。規模が大きいメガソーラーを中心に、固定価格買取制度の認定を受けた発電設備が続々と運転を開始した結果である。
引き続き太陽光発電の買取費用は増加していくが、一方で買取価格が安くなった2013年度以降に認定を受けた発電設備の比率が高まるため、増加ペースは徐々に弱まっていく。2016年度の太陽光発電(10kW以上)の買取価格は24円に決まり、2012年度の40円と比べて6割の水準まで下がった。

原油とLNGは1年で半値に下落
政府は2030年の電源構成(エネルギーミックス)の目標値を設定するにあたって、国全体の電力コストを引き下げる方針を掲げた。そのために再生可能エネルギーの買取費用を2030年に4兆円以下に抑えながら、火力発電と原子力発電の燃料費を4兆円近く削減する計画だ。
すでに再生可能エネルギーの買取費用は2兆円を超えたが、太陽光発電の買取価格を引き下げて4兆円以下に収める方針だ。一方の燃料費は化石燃料の輸入価格がどう変動するか、そして原子力発電の再稼働がどのくらい進むかによるため、長期的に予測することは極めてむずかしい。
少なくとも2016年度は化石燃料の輸入価格の低下と発電量の減少によって燃料費は下がる見通しだ。世界全体で化石燃料が余り始めたことで、火力発電に使う原油・一般炭・LNG(液化天然ガス)の輸入価格は下落傾向が続いている。特に原油とLNGが2015年に入ってから急落した結果、電力会社の燃料費も大幅に減少した。
燃料費の減少に伴って、賦課金と同様に電気料金に上乗せする燃料費調整額が減り続けている。燃料費調整額の単価は3~5カ月前の化石燃料の平均輸入価格をもとに、各電力会社が月ごとに算定する。2015年4月分と2016年4月分の単価を比べると、10社すべてで下がっている。
10社の平均で1年間に燃料費調整単価が3.2円も減った。特にLNGの比率が高い東京電力では単価が5.4円も減り、石炭の比率が高い北陸電力でも1.17円の減少になっている。しかも全社で単価がマイナスになっていて、毎月の電気料金から燃料費調整額を差し引く状況だ。
かりに2016年5月以降の燃料費調整単価が4月分と同じマイナス2.06円(全国平均)で推移すると、標準的な家庭の電気料金は月額で618円安くなる。再生可能エネルギーの賦課金が新単価になって675円上乗せされても、わずか57円の増額で収まる。
加えて火力発電が減少してCO2(二酸化炭素)の排出量を削減できるメリットがある。賦課金の増加ペースが弱まってきたことと考え合わせると、再生可能エネルギーの拡大を過剰に懸念する必要はない。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報46

経済産業省は18日、太陽光発電など再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度に伴う一般家庭などの毎月の負担額を発表した。
標準的な家庭(月間使用量300キロ・ワット時)の負担は、今年5月の検針分から月額675円と現在の474円から引き上げられる。
買い取り価格が高い太陽光発電が増えているためで、同制度が始まった2012年度に比べ、家庭の負担は10倍以上となる。
同制度は、太陽光や風力などの再生エネによる電気を、電力会社が発電事業者から一定期間、政府の決めた金額で買い取ることを義務付けている。
買い取り費用は、電力会社が家庭や企業の毎月の電気料金に上乗せして回収している。再生エネの導入が進むほど電気を使う側の負担が増す仕組みだ。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報41

資源エネルギー庁が固定価格買取制度による再生可能エネルギーの導入・買取・認定状況の最新データを公表した。2015年11月の1カ月間で82万kW(キロワット)の発電設備が新たに運転を開始して、累計の導入量は2500万kWを超えた。
従来と同様に太陽光発電が多いものの、バイオマス発電の増加が目を引く。2015年11月だけで8万5000kW分の発電設備が運転を開始して、累計では風力発電を抜いて太陽光に次ぐ2番目の規模に拡大した。
稼働したバイオマス発電設備の中では、昭和シェルグループが神奈川県の川崎市に建設した「京浜バイオマス発電所」の4万9000kWが最大だ。燃料には海外から輸入する木質ペレットとパームヤシ殻の2種類を使う。年間の発電量は一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して8万3000世帯分に相当する。
このほかでは鹿児島県の薩摩川内市で運転を開始した中越パルプ工業の木質バイオマス発電設備が大きい。地域の間伐材など未利用木質を燃料に使って2万3700kWの電力を供給することができる。年間の発電量は一般家庭で4万3000世帯分に相当する規模になる。
同様に木質バイオマスを燃料に利用した発電設備は茨城県(未利用木質、5750kW)と大阪府(建築廃材、5750kW)でも運転を開始した。その一方では北海道でメタン発酵によるバイオガス発電(150kW)と廃棄物発電(672kW)が稼働している。
新たに固定価格買取制度の認定を受けた発電設備でもバイオマスが順調に伸びている。2015年11月の1カ月間に全国6カ所で合計7万8000kWの発電設備が認定を受けた。愛知県で5万kW、佐賀県で2万3000kWの大規模なバイオマス発電設備が一般木質(輸入材など)で認定を受けている。
このほかに群馬県で3334kW、山形県で1000kWの発電設備が未利用木質(間伐材など)の認定を受けた。メタン発酵バイオガスでは北海道(750kW)と静岡県(20kW)の発電設備が認定を受けている。
太陽光とバイオマスを中心に発電設備が拡大して、買取電力量も飛躍的に増えてきた。2015年11月の買取電力量は35億kWh(キロワット時)に達して、前年同月の23億kWhから1.5倍に拡大した。そのうち太陽光が25億kWhと最も多く、次いでバイオマスが5億kWh、風力が4億kWh、中小水力が1億kWhである。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報37

平和堂は、新電力ベンチャーの洸陽電機(神戸市)と提携し、4月から全面自由化される電力小売り事業に参入する。再生可能エネルギーを中心に生み出される電力を代理販売する。滋賀県や京都府などで展開しているスーパーのカード会員に電力使用量に応じてポイントを付与することで、顧客サービスの拡充にもつなげる。
環境に優しい電力の販売を通じ、地域や顧客に貢献するため参入を決めたという。
契約対象は、平和堂のポイントカード「HOPカード」会員で、関西電力と中部電力の一般的な家庭料金の契約者。初年度は滋賀県内の全世帯の7%にあたる3万5千世帯との契約を目指す。
月額は、300キロワット時使う標準家庭の場合、7160円で、関電に比べ7%安く設定した。利用料金の1%をカードのポイントとして還元する。ホームページで24日から予約の受け付けを始める。
彦根市の本社で記者会見した夏原陽平取締役は「高浜原発の運転が一時停止するなどエネルギーの不安定さが残る中、新電力の比率が増えれば安定供給できる」と話した。
洸陽電機は、太陽光、地熱、水力などの発電施設を全国54カ所で展開している。供給量全体の7割を日本卸電力取引所など外部から調達しているが、今後も自社の発電能力を増強するとしている。
電力小売りの全面自由化をめぐっては、県内では滋賀電力(米原市)が販売を予定しているほか、スーパー「生鮮館なかむら」を展開する「なかむら」(左京区)が代理販売を始めるなど新規参入の動きが広がっている。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報33

ソフトバンクは14日、太陽光など再生可能エネルギーの比率が高い電力小売りプランを、4月下旬から家庭向けに導入すると発表した。電源の57%を再生エネが占めるプランの設定により、再生エネの利用を重視する顧客層の獲得を狙う。当初は東京電力と北海道電力の営業エリアで展開し、他の大手電力のエリアにも広げる方針だ。
新プランの名称は「FITでんきプラン」。ソフトバンクグループのSBエナジー(東京)が設置した全国25カ所のメガソーラー(大規模太陽光発電所)でつくる電力や、他社から調達する電力を組み合わせて供給する。
新プランの電気料金は、供給エリアの大手電力と同等に設定するが、支払額に応じて共通ポイント「Tポイント」を付与。電力とのセット契約で、ソフトバンクの携帯電話か光回線の料金を月200円割り引く。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報23

安倍総理が3月5日に福島県を訪問して、「福島新エネ社会構想」をぶち上げた。福島県で再生可能エネルギーから燃料電池車1万台分に相当する水素を作って、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで活用するというものだ。官民一体の「構想実現会議」を3月中に設置して具体的な検討を開始する。
福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染の影響で、いまだに帰還困難区域が広い範囲に及んでいる。そうした状況の中で福島県を水素エネルギーの一大生産地に発展させて、国が目指す水素社会の先駆けの地として復興させる狙いだ。と同時に水素関連の先端技術を数多く開発して、新たな成長産業として世界市場に拡大させるもくろみもある。
CO2(二酸化炭素)の排出量を抑えた低炭素な水素社会を実現するために、さまざまな分野で技術開発プロジェクトが始まっている。再生可能エネルギーの電力や熱を利用してCO2フリーの水素を製造する技術から、水素を大量に輸送する「エネルギーキャリア」、さらには燃料電池や水素タービンによる発電技術、燃料電池を搭載した自動車・バス・船の開発も進んできた。
その中でも水素社会を実現するうえで最大の課題が「エネルギーキャリア」の構築だ。水素は化石燃料や再生可能エネルギーから大量に作ることができるが、常温・常圧では気体のため、大量に運搬・貯蔵することがむずかしい。解決策は超低温で液化したり、特殊な液体に溶け込ませたり、あるいはアンモニア(NH3)に変換して発電に利用したりする方法がある。
すでにアンモニアを利用した燃料電池や発電機の開発は進んでいる。水素を使った燃料電池と同等の性能を発揮する出力200W(ワット)のアンモニア燃料電池のほか、ガスタービン発電機を使って40kW(キロワット)級のアンモニア専焼発電にも成功している。
エネルギーキャリアのプロジェクトを主導する内閣府は2016年度も引き続きアンモニア燃料電池とアンモニア専焼発電を中心に研究開発を推進するほか、太陽熱を利用した水素製造にも取り組む計画だ。CO2フリーの水素を安価に製造・利用できる技術と組み合わせて、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで低炭素な街づくりのデモンストレーションを実施する。

最先端の科学技術で水素を安く製造
エネルギーキャリアの研究開発は内閣府の「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」として取り組む一方、関連する技術の研究開発を文部科学省・経済産業省・環境省が連携しながら推進していく。
文部科学省では理化学研究所が「エネルギーキャリア製造次世代基盤技術」を開発中だ。具体的には2つの研究テーマがある。1つは「中性の水を用いた水分解による水素の創出」だ。CO2フリーの水素は水を分解して作る方法が一般的だが、分解の工程で希少金属を使う必要があるなど実用化に向けた課題が残っている。
そこで希少金属を使わずに、雨水や海水といった自然に入手できる中性の水を原料に使って水素を製造する。植物は光合成の過程でマンガン(Mn)を触媒にして水を分解する特性がある。それと同様の反応を酸化マンガン(MnO2)で起こして、中性の水を効率的に分解できるシステムを開発する取り組みだ。
もう1つの研究テーマは「省エネルギーな革新的アンモニア合成法の開発」である。気体の水素を液体のアンモニアに変換するためには高温・高圧の条件を作り出す必要があり、大量のエネルギーを消費してしまう。代わりに窒素(N)とチタン(Ti)を使って常温・常圧で水素からアンモニアを合成することが可能だ。理化学研究所は合成に必要な反応効率を向上させながら製造技術の実用化を目指す。
同様に水素製造の分野では、経済産業省が低コストで水を電気分解する技術の開発を進めている。2014~2022年度の9年間かけて実施する「革新的水素エネルギー貯蔵・輸送等技術開発」のプロジェクトで、アルカリ水などを利用した水素製造技術を開発中だ。さらにエネルギーキャリアに関連する液化水素タンクの大容量化を通じて、水素の供給コストを低減して水素社会の拡大を促進していく。

大都市と地方に水素サプライチェーンが広がる
水素を利用する取り組みでは、家庭や企業向けの燃料電池や燃料電池車を経済産業省が普及させながら、燃料電池を搭載したフォークリフトやゴミ収集車の実証プロジェクトを環境省が担当する。
すでに燃料電池フォークリフトの実証試験を関西国際空港で開始した。ゴミ収集車は2015年度中に詳細設計を完了して、2016年度に実証試験を開始する予定になっている。このほかに環境省は長崎県の五島列島で、洋上風力発電で作った電力から水素を製造して燃料電池船を走らせる実証試験を実施済みだ。
東京オリンピック・パラリンピックでは、海上の交通手段として燃料電池船を導入する計画もある。ただし海上の大気中に含まれる塩分が燃料電池の性能を劣化させる可能性があるほか、船の揺れや衝撃によって燃料電池が破損することも考えられる。このため国土交通省は燃料電池船の「安全ガイドライン」を2017年度までに策定して、塩害対策や衝撃対策を徹底させる方針だ。
2015年度に入ってからCO2フリーの水素を製造・利用する取り組みが全国各地に広がってきた。代表的な事例は環境省の支援による水素サプライチェーンの実証プロジェクトで、神奈川県の横浜市など5カ所で進んでいる。
横浜市ではトヨタ自動車が中心になって、風力発電所の電力で水素を製造する計画だ。製造した水素はトラックで臨海部の倉庫や工場まで運んで、燃料電池フォークリフトに供給する。2016~2019年度の4年間で実証に取り組む。
再生可能エネルギーが豊富な北海道では2つの実証プロジェクトを予定している。酪農が盛んな鹿追町(しかおいちょう)では、乳牛の排せつ物からバイオガスを精製するプラントが稼働している。このバイオガスから水素を製造して、周辺の畜産農家などに設置した燃料電池で電力と温水を供給する試みだ。
もう1つのプロジェクトは白糠町(しらぬかちょう)にあるダムに小水力発電所を建設して、発電した電力で水を電気分解して水素を製造する。製造した水素は高圧の状態でトレーラーなどを使って近隣地域に輸送する計画だ。再生可能エネルギーと水素を組み合わせてエネルギーの地産地消を進めることで、広い北海道にも低炭素な街づくりを展開していく。

株式会社Z-ONE

依田一義のエネルギー情報④

再生可能エネルギーの買い取りを電力会社に義務付ける「固定価格買い取り制度」(FIT)を巡り、経済産業省の有識者会議は22日、2016年度の買い取り価格案をまとめた。
事業用太陽光(発電能力10キロワット以上)は、1キロワット時あたり24円とし、15年度から3円引き下げる。住宅用太陽光(同10キロワット未満)も2円下げ、同31~33円とする。
価格の引き下げは4年連続。
一方、太陽光に比べ普及が遅れている風力や地熱、中小水力、バイオマスなどその他の再生エネの買い取り価格は現行水準を維持した。今後意見公募を経て、3月中に経産相が決定する。
事業用太陽光は、発電パネル価格や工事費などが値下がり傾向にあることを反映し、制度開始時の12年度(40円)の6割の水準まで下がった。
住宅用では、パネルの性能向上で発電効率が高まっていることなどを考慮した。一方、事業用が20年、住宅用が10年の買い取り期間は維持する。

株式会社Z-ONE